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2003年度第二期リレー小説 第5回
「蘇る大森林 〜ノエリットの奇蹟〜」(他の方で後始末の方をお願いします) 超 蜜柑


「過去の森」はこの地方でも最大の面積を持つ大森林である。昼尚暗い自然の要塞 は、軟弱な旅人の進入を決して寄せ付けることはなかった。森は動植物の楽園であ り、人里では滅多に見られなくなった様々な生物が互いに分を弁えながら息づいてい た。16年前に端を発した「森の人」事件によって「過去の森」の一部が蹂躙された が、それですら森全体にしてみれば氷山の一角に過ぎない程度だ。そんな中、故モエ ルティマ博士が最も過去の森に精通した人物とされているが、その博士ですら所詮は 森の中腹までしか探索することは出来なかった。 
 かつて「過去の森」と呼ばれた場所の最奥部、故モエルティマ博士ですらその探索 を断念した場所に彼らはその居を構えている。彼らの名は闇の教団「グディアルメ フ」。十万年に一度この世界に大破壊をもたらす暗黒神「グディアルメフ」を崇拝す る邪教の集団だ。 彼らは「過去の森」最奥部にその口を広げている洞穴にその神殿 を建設し、その中で日々暗黒神グディアルメフに祈りを捧げている。洞穴最深部に設 置された闇の祭壇には巨大なグディアルメフ神の像が鎮座坐し、その周囲を天に昇る 鳥を彫り込まれた四本の柱が守護している。その祭壇の前には「グディアルメフ」の 最高権力者、教主ウィルドが座す玉座が置かれている。
 現在、その玉座に腰掛けた教主ウィルドはグディアルメフを崇める16人の暗黒の 使徒を満足げに眺めていた。そして一息つくと、彼は徐に立ち上がり、右手を高らか に掲げた。途端に16人の暗黒の使徒達が歓声を上げた。
「ウィルド! ウィルド! ウィルド! ウィルド! ウィルド……」
 いつ鳴りやむとも知れぬ歓声にウィルドは自らに心酔したかのように目を閉じてい たが、やがて空いていた左手を軽く振ってその熱気を鎮めた。
「聞けぃ! 我がグディアルメフの同士達よ! 遂に時は来たぁ!」
 うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
 一層の歓声、ウィルドはやはりそれを鎮め、右手に掲げた一冊の書物を示した。
「この『マハールクの予言書』に書かれた通り、世界浄化の日は目前に迫っている!  我々は偉大なる神、グディアルメフに従い、その運命を受け入れようではないか !」
 ウィルドの右手の本は紫色の装丁で、表紙には茨のリースの模様があった。
 うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
「我々は世界浄化の礎となり、そして新たな世界でグディアルメフ神の使徒として永 遠の命が約束されれるだろう!」
 うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
「今こそ我々は……ん?」
 気分良く演説をしていたウィルドはふと言葉を切った。それは十六人の暗黒の使徒 達の中でも最も敬虔な、祭祀長グルグスの様子にあった。今や熱闘状態と化した闇の 神殿の中で、唯一彼だけが気難しい顔をして押し黙っていたのだ。
「どうした、祭祀長グルグス! 貴様、グディアルメフ神の所行に不満でもあるのか !」
「いいえ教主ウィルド。滅相もございません。このグルグス、世界浄化の暁には 真っ先にこの身をグディアルメフ心に捧げる所存にございます」
 グルグスは恭しくウィルドに、グディアルメフ像に礼をし、跪いた。その様子に ウィルドは満足げな表情を浮かべた。ただし、一部に怪訝そうな表情を残して。
「では何をそんなに憂いておる?」
 ウィルドの問いにグルグスは全身を震わせて畏まっていたが、やがて観念したかの ようにか細い声で答えた。
「……居りませぬ」
「なに?」
「我々には! グディアルメフ神御降臨に際して執り行われる降誕祭に必要な闇の巫 女が居りませぬ!」
 し……ん。場が一瞬にして凍り付いた。グルグスを始め、スタンディングオベー ション状態の信者達も、ウィルドもその動きが止まる。そして数十分の時を経て、
「な、な、なんということだぁぁぁ! それでは儀式が執り行えぬではないか! グ ルグス、何故そういう重要な事態を今まで放置しておいたのだ!」
「も、も、申し訳ございませぬ! し、しかしながら教主ウィルド、こんな人里離れ た森の奥では人材を確保することもままならず……若い娘の入信を狙って色々と女性 向けの教義も考えはしたのですが……」
 グルグスの弁解にウィルドは憤慨したようにどっかり玉座に乱暴に座り、苛立たし げに肘掛けを叩いた。そして考えを巡らすこと数分――
「水鏡を持てぇい!」
 ウィルドの神殿全てに伝わるような怒声が響き渡る。それと同時にグルグスを含め た十六人の使徒達が一斉に神殿の奥へと散っていった。そして――
 どぉんどぉんどぉんどぉんどんどんどんどんどんどんどん!
 銅鑼が鳴り響き、十六人の使徒の中でも屈強と知られる精鋭五人が、水の張った巨 大な皿のような物を運んできた。その周囲を残りの使徒達が暗黒の調べを奏でながら 見守っている。
「水鏡、ここに!」
「うむ!」
 ウィルドは『マハールクの預言書』を片手に持ち、片手で印を切って呪文を詠唱し た。すると水鏡の鏡面が静かに揺らめき、何かを映し始めた。が、そこでその動きは 止まる。
「教主ウィルド、如何がなされました!」
「今、何時だ……」
「は? 既に日は落ち、草木も眠っておりますが……」
 ウィルドはそれを聞くと魔術を止め、静かに玉座に着いた。
「無粋!」
「は?」
 使徒の疑問にウィルドは力強く答えた。
「愚か者! うら若き乙女の寝姿を事も有ろうに魔術で覗くなど無粋! 余りにも無 粋!」
「し、しかし……我々には一刻も早い巫女の発見が……」
「だから貴様は三流なのだ、第12使徒ガトバギよ。正々堂々、真に誇れる悪を貫い てこそ、我々闇に生きる者にも光は当たるというもの。それが、真の悪道というもの だ!」
 ウィルドの一喝に、第12使徒ガトバギは感涙に噎び泣きながらその場に頽れた。
「私が……私が間違っておりました」
「分かれば良し! 皆の者、聞いての通りだ。これより巫女捜索は一時中断、婦女子 も安心して姿を見せられる時間、正午を以て再開とする! 本日解散!」
 ウィルドはばばっとマントを翻し、踵を返して教主室へと去っていった。

 そして翌日の正午、ウィルドは再び水鏡に魔術を行使していた。するとここから最 も近い村の映像が映し出された。そこには一人の少女の姿が。
「これか! 見目麗しく、清純にして品行方正、神秘的な中にも家事万能の闇の巫女 は!」
 ウィルドが水鏡を覗き込む。映像の中の少女は何やら連れらしき男と言い争いをし ているようだ。少し声が漏れてくる。
『だから何であんたが私と同じ物を持ってるのよ!』
『俺だって知るか! この本は俺が爺さんから引き継いだ――』
『そんなこと知らないわよ! 大体ね――』
 ウィルドは押し黙っていた。他の使徒達も。この後も口論は続き、業を煮やした少 女が何やら男に突っかかっていくのが見える。ウィルドが、ぽつりと呟いた。
「……おい」
「……はい」
「見目麗し……いかどうかは主観に任せるとして、清純……品行方正はえっと……多 少元気があった方が宜しいだろうと。神秘的な……のはまぁ、これはこれで斬新さを 狙えばいいか。家事は……奇蹟を信じよう」
 ぶつぶつと、独り言のような呪詛のような言葉を吐いたウィルドは気を取り直すか のようにマントを翻し、使徒達に命じた。
「これより巫女奪取を開始する。場所はここより南方の名も知らぬ村! 使徒達よ、 戦車 をここにっ!」
「ははっ!」
 水鏡の時と同じように、使徒達は神殿の奥へと姿を消し、数分後に銅鑼の音が鳴り 響く。
 どぉんどぉんどぉんどぉんどんどんどんどんどんどんどん!
 その中で屈強な男達五人が巨大な御輿を担いで現れた。御輿には玉座が備え付けら れており、人が乗れるようになっている。やはりその周囲を取り囲む使徒達が暗黒の 調べを輪唱している。それを見たウィルドは口元を邪悪に歪めた。
「……拐かしとは無粋だが、グディアルメフ神の御為、致し方有るまい! 行くぞぉ !」
 ウィルドは戦車に飛び乗り、闇の神殿の出口を指し示し、再度号令を掛けた。
「出陣だ! 森の木々を傷つけぬよう、環境に配慮して進撃するのだ!」
 ウィルドの一声に使徒達が呼応した。
 うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ

 こうして、「過去の森」は一時騒然となった。





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