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2003年度第一期リレー小説 「蘇る大森林 〜ノエリットの奇蹟〜」 第24回 (これから父娘の話を書けと? まぁ、最近重いんで明るく明るく) 超蜜柑 夜が明け、朝日が窓から射し込んだ頃、宿の一階はそれぞれ自発的に起き出してき たティア達を一同に集めていた。それぞれが前日の組み分けの通りに別れ、過去の森 に対する最後の注意を受けていた。勿論、演説しているのはウィルドである。 「……あぁ、つまり、諸君らが森を歩くのはこの際構わんが、幾つかの注意事項があ る!まず、木々を傷つけないこと! 第二に、枝を折らないこと! 第三に、その他 騒音公害は以ての外、まして道の小脇に咲いている可憐な一輪の花を踏みつけにする など万死に値する! それと森の動物達に出会ったらその生活領域を決して……」 とか何とか、演説は森を歩く際の心構えから始まり、その熱弁は長々数時間に及ん だ。そのあまりの長さに、当初は東の空低くに顔を覗かせていた太陽は、いつのまに やら天高くより彼らを見下ろし、結果として飽きて西の空へと去ろうとしていた。 こうなった根元的原因はそもそも全てウィルドにあるわけだが、これはウィルド側 にも言い分があって、演説の最中にフォルスが「んなこた分かってるって。とっとと 出発しようぜ!」と息巻いた為に、ウィルドは烈火の如く怒り、あわやグディアルメ フとの全面対決という一触即発の事態にまで発展したのだ。 この時はジークやフリエらといった良識派のお陰で大事には至らなかったが、結局 演説は最初からやり直しという羽目に陥った。二度目の演説が始まり、今度は順調に 進んでいたのだが、何と演説の最中にアイゼンが居眠りを始めるという大失態を侵し た為に再びウィルドが激怒。グディアルメフが総出でアイゼンを戒める呪歌を合唱し 始め、やはり良識派に止められることとなった。 ここまでで既に昼食の時間をとうに過ぎていたが、演説はまたもやり直しとなり、 本日三回目の演説を聴いていたティアが遂に嫌気がさし、「もう話は分かったから さっさと出発したら? 時間の無駄よ」と宣った為に本日、三度目の激怒を迎えた ウィルドと直接対決する羽目に陥った。ウィルドはティアを自分の眼前に座らせると 自らもティアに額を付けんばかりに肉薄し、過去に人間の傲慢が引き起こした自然破 壊の例を長々小一時間に渡って説明し、更にそれを理路整然とまとめ上げ、「お前の ような自然に対する畏敬の念が感じられん小娘が世界に蔓延しているから森が蹂躙さ れるのだ」と、とくとくと説教を始めた。これに対して勿論異論のあるティアが抵抗 を試みるとウィルドは嬉しいやら哀しいやら、更に勢いを増して己の理論を武装し始 めた。結局、過去の森に16年も暮らしている男達の理論には勝てず、最終的にティ アは森に対して謝罪をする羽目に陥るのだが、結局それらを終えて演説が最後まで無 事終了するまでにまるまる一日を要することとなったのだ。 三回の中断を経たことによってグディアルメフ以外の面々はたった一日でげっそり とやせ細り、結局この日の出発は見送られることとなった。全員胸中ではウィルドに 対しての文句が紅蓮の炎のように荒れ狂いながら踊っていたが、彼の烈火の如き反撃 を恐れて誰も口に出すことはしなかった。 こうして予定の日より遅れること丸一日、ようやく森の三道を踏破する旅が始まっ た。が、早朝からウィルドによる出発の前の演説はやはり行われた。 「……昨日も再三再四忠告したが、森に、大自然に対する感謝の念を常に忘れぬよう に行動すること! それと決して単独で行動してはならぬ! 何を隠そう、このグ ディアルメフも結成当時は、この大森林を三日三晩彷徨い続けるという失態を侵した ほどなのだからな! 然るに我々は常に己の立つ位置を考え、常に森に抱かれている という自覚を持つことが……こら、そこぉ! 聞いておるのかぁ!」 「ちゃんと聞いてます!」 うんざりした様子でティアが顔を俯けるとすかさずウィルドの檄が飛ぶ。昨日の議 論ですっかり精神が参っていたティアは、これ以上ウィルドに怒鳴られては敵わない と素直に返事した。脇でフォルスがそっと耳打ちした。 「……良く耐えたな、お前……」 「……これでまた三時間まるまる大激論、なんてゴメンだわ……」 ティアが心底うんざりしたように吐き捨てた。そして彼女はちらりと横目で自分達 を取り囲む暗黒の使徒達を見やった。全員が心酔したようにウィルドの演説に聴き 入っている。ウィルドの言葉が途切れたほんの一瞬を見逃さず、相槌を打つように鈴 やら錫杖を鳴らすのも忘れていない。 「……どう見たって邪教の集会よね」 「……って、こいつら本当に邪教の集団だろうが」 ティアとフォルスが同時に嘆息し、直後にウィルドの檄が飛んだ。 こうして、長い長い演説の時間は終わり、ようやく出発と相成った。各々がルート の確認の為にグディアルメフ作成の地図を眺めて相談をしている。そんな中、森の通 路は一応大体が頭の中に入っているグディアルメフの面々は、陣形を組んだまま微動 だにせず待機していた。そこへ少しおずおずした様子で小さいフリエがウィルドの傍 に寄ってきた。 「あの……父さん……」 「む……」 声を掛けられたウィルドは無表情であった。しばしの間フリエを凝視していたウィ ルドは、やがて何かを決意したように口を開いた。 「我が娘、フリエよ……何か用か?」 「あ……えっと、これからのことで……」 フリエが尋ねた瞬間、ウィルドはぷいとそっぽを向き、一言だけ言い放った。 「お前は連れて行かぬ」 「え?」 その言葉にフリエが呆然とする。その時のフリエとしては、もしかして自分の裏の 姿を悟られたのでは、と内心戦々恐々としたが、次のウィルドの言葉がそうでないこ とを伝え、ほっと胸を撫で下ろした。 「……お前にこの行軍は無理だ」 正体がばれていないとは言え、このままでは連れて行ってもらえない。何としてで も七賢人の書を取り戻したいフリエとしてはそれは非常にまずい。 「だ……大丈夫です! 絶対に弱音を吐いたりしませんから!」 が、ウィルドは首を縦には振らない。ならば、と得意の魔術でウィルドを心変わり させてやろうと考えたフリエだったが―― 「絶対にならん!」 途端にウィルドの鋭い檄が飛んだ。その迫力たるや先程までの演説の最中に見せた ものとは全く比べものにならない程のもので、まるで悪鬼羅刹か鬼神がウィルドに憑 依したかのようであった。さすがのフリエもそのあまりの形相に反論はおろか、魔術 を使う気力まで失い、ただただ押し黙った。 が、その時仲裁に入ったのは脇で騒ぎを聞いた年長、ジーク=フリードルその人 だった。彼は持ち前の穏和な表情でウィルドの前に立つと柔らかく声を掛けた。 「まぁまぁ、何もそんなに怒鳴らなくても……一体どうしたと言うんです?」 「詩人か。少し黙っておれ、これは我々の問題だ」 ウィルドは取り付く島もなくそう言い放つ。そこにフリエを哀れに思ったのだろ う、ティアやフォルスの二人も加勢に入る。 「別に連れて行ってもいいじゃない!」 「そうだぜ、おっさん。疲れたらおっさんの戦車に乗せてやりゃぁいいじゃないか」 二人の抗議にもウィルドは答えない。すると今度は大きいフリエが割って入った。 「どんな事情があるのかも知らせずに、ただいきなり駄目だとはねつけるのは、少々 乱暴ではないですか? この子もそれなりに一生懸命考えた末の決断なんですから、 少しは尊重してもいいんじゃありません?」 フリエの静かだがもっともな抗議を聞き、ウィルドははようやく顔をこちらに向け た。 「……エンシャンルオートの断崖絶壁……」 「はい?」 突然の聞き慣れない単語にその場の全員が首を傾げた。 「我々が進むモエルティマルートにはこの大森林でも有数の難所とされる、エンシャ ンルオートの断崖絶壁が立ちふさがっているのだ」 「そんなに険しいのか?」 フォルスが眉を顰めて尋ねると、ウィルドは遠い過去を回想するように虚空を見上 げ、語り出した。 「あれはもう何年前のことか……私は一度だけ師の大森林ルート開拓を手伝ったこと があった。その時に遂に師ですら越えられなかったルートがある……それがエンシャ ンルオートの断崖絶壁だ。そこの傾斜は直角以上、壁面は脆く崩れやすく大人一人分 の体重すら満足に支えられん。そして高さはまさに天を貫かんばかり……そのあまり の険しさに私と比べても圧倒的に得手であった師ですら、この断崖絶壁は中腹までで 断念したのだ」 「父が登るのを諦めたんですか!」 ウィルドの言葉に最も過敏に反応したのはフリエだった。彼女のあまりの驚きよう にティアが恐る恐る声を掛けた。他の連中も似たようなもので、皆一様にフリエを見 ている。 「……あのぅ、フリエさん。諦めたのがそんなに驚くようなことなんですか?」 どう考えたって人間が登れる断崖ではないし、まして中腹まで登っただけでも十分 驚愕に値する。ウィルド達とフリエ以外の面々はそう考えただろう。しかし、フリエ はゆっくりと首を振った。 「父は大学登山部顧問を務め、年間の半分を山で暮らす程の山男だったんです。特に 断崖絶壁を登ることに情熱を傾け、今まで制覇できなかった絶壁なんて存在しないと 思ってました。その父が断念したとなると……確かにフリエではどう頑張っても無理 ですね」 「そんな! おばさま!」 皆の加勢によって旅の同行が出来る展開になりかかった所を、最大の後見役である フリエに反対されて小フリエは切羽詰まった声をあげた。 「うむ。かつてに比べて体力も技術も向上した私とて二の足を踏むような行軍だ。他 の者は元より、我が娘をこれほど危険な行軍に連れて行けようか、行けるわけがなか ろう!」 ウィルドの一喝に全員が押し黙った。確かにたかだか10歳の子供が付い てこられる旅ではない。それが例え数日程度のものだったとしても、だ。 「止むを得ないでしょうね。ではフリエちゃんは別のルートの皆さんと一緒というこ とでどうでしょうか?」 妥協案を提示したジークを見やり、ウィルドは軽く頷いた。フリエも同様だ。 「まぁ、妥当であろうな」 「では、私のルートに一緒に……」 「待ちな! そんな勝手なこと、許さないよ!」 全員が納得しかけたところで再び静止の声が飛んだ。ウィルドとフリエが声のした 方を振り返ると、そこには鬼の形相でウィルドを睨み付ける女将さんの姿があった。 その迫力にウィルドが一歩後退る。 「な……何事だ?」 「何事だ? じゃないよ! あんた、このあたしの組み分けに不満があるとでも言う のかい!」 フライパンを片手に持った女将がずんずんとウィルドに歩み寄る。その度にウィル ドが一歩ずつ後退る。 「べ……別に不満など……ただあまりにも危険なので付れて行くわけには行かぬと 言ったまでで……」 「あんた、何にも分かっちゃいないねぇ……」 女将さんはウィルドに肉薄すると嘆かわしいといった様子で首を降った。そして下 から突き上げるように見上げた。 「いいかい、あんた? あの子はお前の何なんだい?」 「む……娘だが?」 「あんたは娘と会ったことがなかったんだろう?」 「幼少時以来、ない」 「ってことはあの子にとっては父親との再会は実質これが初めてなわけだ?」 「そ……そうなるが」 「はぁぁ……分かってないねぇ。あの子の気持ちを考えてごらんよ!」 ウィルドの耳元で女将さんのフライパンが轟いた。壁に打ち付けたらしい。ウィル ドのこめかみに一筋の汗が伝った。 「娘の……気持ち?」 「そうだよ。あの子の身になって考えてごらんよ! あの子は今まで父親が死んだと 聞かされて育ってきたんだろう? それがどうだい、今あんたは父親としてあの子の 前にいるんだ。あの子としては死んだはずの父親が目の前にいるんだよ? 嬉しくな いはずがないだろう? 喜ばないはずがないだろう? 本当ならあんたの胸に飛び込 んで思い切り甘えたいんだよ! 父さん父さんと泣きながら抱き合いたいんだよ! けれど今は事情が事情で、大変なのをあの子なりに理解してるから我慢してるんだよ ! どうしてそれがあんたには分からないんだい!」 再び耳元でフライパンが鳴った。ウィルドは女将さんのどこまでも深い瞳に射竦め られ、微動だに出来ない。ただただウィルドはあうあうと口を開いたり閉じたりする だけだ。 「その何とかの断崖が険しいのは百も承知さ! この子だって覚悟を決めてのことな んだろう?」 女将さんの暴走に小フリエは慌てて胸中で首を横に振った。勿論モエルティマルー トがそれほど険しい地獄の強行軍になろうなどという事は夢にも思っていなかった。 が、女将さんの暴走は止まらない。 「例えこの旅で行き倒れることになっても、あの子は本望なのさ! 何故って? そ れはあんたが……父親がいるからさ! あんたと一緒ならどんな場所でも怖くない し、どんな苦難にだって打ち勝ってみせるのさ! そういう子なんだよ、あの子は !」 段々と話の展開の雲行きが怪しくなってきたのを感じ取り、小フリエは元より大フ リエ、ジークなどといった良識派の顔が引きつりだした。ティアとフォルスは既に話 に付いていけなくなっている。何故かアイゼンに至っては女将さんの話にうんうんと 相槌を打つ始末。色々な意味で誰も女将さんを静止できない。 「苦しいのなら……あんたが守ってやればいいだろう! あの子が泣くのなら、抱い て慰めてやればいいだろう! 疲れたらおぶってやれば、寒いのなら暖めてやればい いだろう! どうしてあんたはそんな簡単なことも分からないんだい! う、 うぅぅぅ……」 遂に感極まった女将さんが泣き始めた。女将さんはその場に頽れるとハンカチで顔 を覆って肩を震わせた。時々鼻をかむ音が宿内に響く。 既にもう何が何だかよく分からない状況の中で、大フリエが何とか女将さんを宥め ようと近寄ったが…… 「まぁまぁ、女将さん……落ち着いて――」 「私が間違っていた!」 そんな大フリエの言葉を遮ってウィルドが叫んだ。ウィルドは今にも泣き出しそう な表情で堪えながら天を見上げると、腹の底から声を絞り出した。 「娘が……私の娘がそれほどまでに私の事を思っていてくれたなど、私は思ってもみ なかった。私は……私はそんな娘の健気な思いを……大人の事情を楯に践み躙る所で あった……女将殿、礼を言うぞ! 私はもう少しで親として……人として道を完全に 踏み外す所であった! 私は今日、今、この瞬間、猛烈に感動した! 良かろう、フ リエよ、我が娘よ!お前の気持ちはしかとこのウィルドに、父に伝わった! いかな る苦難もこの父が守ってみせる、私がお前を守ってみせるぞぉ!」 長い絶叫は終わり、ウィルドは膝から崩れ落ち、女将と抱き合いながら号泣した。 この時の二人は泣きながらあうあう言うだけで何が何だか分からず、結局二人が泣き 止んで話が再会されたのは日が沈んだ後だった。こうして二日目も出発は断念とな り、三日目の朝となった。 因みにその夜、グディアルメフの部屋からは、夜通し人生を祝福する歌が流れてい たという。 「では、出発だ!」 一日目、二日目とたっぷり演説したからか、昨日の一件で娘の気持ちを理解できた からか、ウィルドは演説することなく満面の笑顔で出発を宣言した。他の面々にして も既に悲壮感はなく、それぞれに吹っ切れた様子だ。無駄とも言える二日間の出来事 が各人から肩の力を抜かせたのは確かだった。 三道の手前まで全員で行き、そこから三方に散った。ティア達はファラリスの指示 で右手方向へ。大フリエ達はとりあえずまっすぐに。そして地獄の強行軍へと突入し たウィルド達グディアルメフと小フリエは左手方向に向かった。 ウィルドは実に上機嫌で戦車に乗っていた。頭上ではノエルが昼寝し、彼の傍らに は恐ろしく居心地の悪そうな小フリエが乗っていた。 「あの……父さん……」 「ん、何だ、娘よ」 ウィルドは昨日の真実――もっとも、ウィルドと女将さんだけの認識だが――が余 程嬉しかったらしく、普段では絶対に見せない笑顔で振り返った。 「ごめんなさい、無理を言って……」 とりあえず中心部に辿り着ければいいだけのフリエにとって、地獄の強行軍入りし てしまった事は大きな痛手だった。素直に大フリエのルートにでも入れてもらえば良 かったと思ったが、今更後の祭りだ。 「なに、気にするな。一人二人増えたところで我々には大差ない。それに……」 視界の隅でグルグスが呼んでいるのを発見し、ウィルドはあからさまに顔をしかめ てそちらを向いた。 「何だ、グルグス。今、娘と会話を……」 「そのことも関係してのお話でございます。色々と状況が複雑になってきましたが、 我らの目的はあくまでグディアルメフ神の御降臨でございます。お忘れ無きよ う……」 「分かっておる。己の使命を忘れた日など一日たりとも無いわ!」 「……しかし教主ウィルド。あれから数日経っても我々は闇の巫女を確保できません でした。ティアという娘も別の道を進んでしまいましたし……そこでご提案が……」 「うむ」 ウィルドにごにょごにょと何かを吹き込むグルグス。すると途端にウィルドの表情 が明るくなり、何かを期待するような視線をフリエに向けた。何か非常に嫌な予感の したフリエであったが、時既に遅し、であった。 数分後、戦車の上には真っ黒な衣装に身を包んだフリエの姿があった。子供にも負 担がないように配慮された軽めの素材と、子供にも喜ばれるような可愛らしいデザイ ンの、闇のドレスである。それを着たフリエは内心気まずい思いに沈んでいたが、無 理をして笑顔を作っていた。その横に立つウィルドは戦車の足を止め、盛大に演説し ていた。 「皆の者! 本日ただいまを以て我々は遂に闇の巫女を得たぁ!」 うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 「苦節16年! 我々は今まで多くの闇の巫女のスカウトに失敗し、苦汁を舐めさせ られてきた!」 うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 「だがそれも今日までだ! 今日は素晴らしき日となろう! 歴史に名が残る記念の 日である! 我が娘、フリエが! このグディアルメフ教団に新風を巻き起こしてく れることは言うまでもないだろう! 全員起立直立不動の後、暗黒の調べ、合唱!」 途端に音楽が始まる。全員が一糸乱れぬチームワークで奏でられる暗黒の調べは非 常に素晴らしかったが、フリエは内心でかなり沈んでいた。 「あのぉ……ウィルド様ぁ」 そんな中、おずおずと頭の上から声をかけたのがノエルである。ノエルは物欲しそ うな目をウィルドに向けている。 「ノエルか、どうしたのだ? このめでたい日にそのような浮かない顔をして?」 「ノエルもフリエちゃんみたいな可愛い服が欲しいです」 それを聞いたウィルドが唸った。 「むぅ。確かに同じ使徒でありながらお前だけ服を着ていないというのも差別である な。よし、分かった! 第14使徒マックンゼル、元服飾業でありながら己の求める デザインが周囲に受け入れられず、己の価値観を認めてもらえる場所を求めて放浪し ていたところを拾われた、貴様の出番だ! ノエルにも可愛い服を用意せぃ!」 言われた第14使徒マックンゼルは御意と呟く。 「了解致しました、教主ウィルド。このマックンゼル、かつて王都主催の衣装コンテ スト優勝の実力、とくとご覧に入れましょう!」 言うが早いか、マックンゼルはすぐさま洋服作りに取りかかった。その様はまるで 何かが取り付いているかのようであった。そして、その間にグディアルメフ達は休憩 を取ることにした。そして―― モエルティマルート、グディアルメフ隊、第一日目。 闇の巫女誕生祭とノエルの洋服作りにより、ものの一時間で本日の行軍終了と相 成った。 |