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2003年度第二期リレー小説 「蘇る大森林 〜ノエリットの奇跡〜」第22回 (徹夜の執筆×ラブコメ風味=うわぁ……) 18%gray ティアの悪い予感はものの見事に的中した。 ティアとフォルスを同じグループにすべく、女将がさりげなく、かつわざとらしく その場のメンバーを組分けした結果・・・ 一つに、グディアルメフ+ウィルド、フリエ(小)組。 一つに、フリエ(大)、剣士、ジーク組。 一つに、ファラリス、ティア、フォルス組。 こうなってしまったのだった。 いや、メンバーを3つにわけると聞いたときからなんとなくこうなるような、フォ ルスと同じ組になるような展開は、まったくもって不条理に予感していたのだが、そ れにしたって過程が重要だ。これがランダムな結果だったらどちらにしても結果を受 け入れるしかなかっただろうけど、こんなにも直接的に他意が混じってしまった結果 というのはいかんとも落ち着かないというか、くすぐったいというか。とにかく、困 るのである。 「ちょ、ちょっと女将さん……」と、抵抗を試みたティアだったが、「ふむ、しか り」とウィルドがこの組み分けにうなずく始末。 「まず、どの組にも魔術師が含まれることが条件だろう。そしてフリエ、この子を連 れて行くとなれば、我がグディアルメフのストゥンラッド兄弟の駆る戦車に乗ってい かねばなるまい。となるとこの組分け、なかなか道理よ、やるな女将殿」 思わぬ称揚の言葉をもらい、ほほほと空で笑う女将。 「さて、ではファラリスには例の道の案内を頼まねばなるまい。ティア殿、フォルス 殿はファラリスについて行ってくれぬか。そして《通路》の方だが、入り口にさえた どり着いてしまえばあとちょっとしたコツでたどり着ける……だったな、ファラリス よ」 話を振られたファラリスは、うんざりしたようにうなずく。なにせ、つい数日前に もグディアルメフはこの道で迷っているのだ。16年使い続けた道の勝手を未だに覚 えていない、というのはこの教団の数多い謎の一つである。 「ふむ、この道はジーク殿、剣士殿、フリエ殿に担当してもらおう。残りの、最も厳 しいだろうモエルティマ教授の道は、我々グディアルメフが進む。これでよいかな ?」 ここまで理路整然と並べられると、ティアとしても反対のしようがない。 結局、この都合の良すぎる偶然を飲み込むしかなく、何か置いて行かれたような煮 え切らない気持ちに、ティアはじと目でフォルスを睨むことになる。 「なんだよ」 「別に……」 ここ数日、こいつのことでため息をつくのは何回目だろう、とティアは考えた。 組分けも決まり、その場は一旦の解散となった。そもそも出たとこ勝負の感がある 今回の行軍だし、それ以上話し合って得ることも少ないと皆が判断したからだろう。 この村でもう一晩宿を取り、次の日の朝早くに揃って出発ということになったのだっ た。 さて、折はすでに夕方。ティアは宿の一階で少し早めの夕食をとっていた。 「で、なんであんたがここにいるの?」 「飯を食ってるからだろ」 ティアの向かいには、もはや言うまでもなく、フォルスの姿。 目の前のティアにかまわず黙々と料理を口に運ぶフォルスに、ティアは何か言って やりたくなったが、減らず口が返ってきて疲れるだけだと思いなおして、黙って食事 を楽しむことにする。 そういえば、とティアは思った。最初にこいつと話したのもここだっけ、と。 (あの時はたしか、コップが倒れて……だったわね。念動力かしら) そして思い返してみれば、あのグディエカーリオと戦ったときも、それらしいこと をしていたような気がする。 「ねぇ」 「ん?」 「あんたの得意な魔術って、やっぱり念動力なの?」 ティアの質問にフォルスは一瞬きょとんとしたような表情をうかべ、 「あぁ、そうか。まだ言ってなかったっけな」 フォークを皿に置いて、ティアに向き直る。 「結論から言えば、違う。まぁでも、関係なくはない、かな。あの時は短縮呪文 (カットスペル)を用意してなくてな、そもそもの術式が短いヤツで応戦してたらあの ザマだ……。さて、ここからはちょいと俺ん家の事情が絡んで来るんだが……どう だ、聞くかい?」 いたずらっぽい口調とは裏腹に、フォルスの目はひどく真面目な光をたたえてい た。一呼吸分の間をおいて、ティアはうなずく。それを見て、フォルスは目をつむ り、「OK」と呟いた。 彼はたんたんと、語った。カーラー家の魔術のこと、自分がその家の落ちこぼれであ るということ、彼の祖父のこと、そして黒い本がその祖父の形見だということ。 フォルスの話を聞きながら、ティアは、一つのイメージが、コトリと心に収まる様を 感覚していた。それは前に感じた、自分が目の前の男とひどく似ているという感覚、 その感覚を最底辺でつなげるものだった。 「で、こっからが本筋だ。念動力は本来ならカーラーの血が得意とするものなんだ が、俺ん家では、この術の修練をする時あるイメージを念頭おくように言われる」 「あるイメージ?」 「そう、そいつは“糸”だよ。物体から一本の糸が伸びているのをイメージするん だ。例えば手元に寄せるなら、その糸を引っ張るイメージ。持ち上げるなら、天に吊 り上げるイメージ。何かに向けて飛ばすなら、対象にむけてその糸が思いっきり縮む イメージ」 フォルスは、手元のスプーンを空中で自由に動かしてみせる。 「まぁ、あくまでこれは修練の初期段階の話だ。少し上達すると、今度はそのイメー ジを取り払うように言われる。物を動かすのに糸をイメージするということは、一つ 余分な段階を踏んでいるということだからな。慣れてくると、糸なんてものをイメー ジしなくても自由に術を使えるようになる。」 そこでフォルスは一つ呼吸をおいて、「だが」と、語勢を強めた。 「俺やじいさんみたいな血の薄いヤツは、完成された魔術をそのまま修練したって身 につかない。どこかで自分に合うように、強烈にアレンジを加えない限りはな。じい さんは、この“糸”に目をつけた。逆に、糸のイメージを強化したんだ。このイメー ジを磨いて、磨いて、磨ききった。そして、何の媒介もなしに、具現化することに成 功した」 フォルスは、ティアの目の前で両手の人差し指を立てた。 「見えるか?」 確かに、 糸……まったくもってシンプルだが、ここまで応用の効くものもなかなかないだろ う。十分な強度さえあれば、くくり、引き裂くことさえ可能だ。ましてやそれが魔力 の糸だったら……用途は無限に広がる。 第一、魔術を独力で開発するとは、何ということだろう。魔術とはあくまで習得す るものでしかなかったティアにとって、それは、果てしなく高い山を盲目で登りきる ことに等しい行為であるように思われた。そして彼は、終に頂に辿り着いたのだ。何 たる、執念。 「これが、これがじいさんの魔術、俺の武器だ。じいさんの創り上げた魔術を全力で 継承し、鍛えに鍛え上げた。で、この術の修練の過程で、念動力だけは人並みには使 えるようになったってわけだ。ま、結局他はさっぱりだけどな」 フォルスはすました顔で肩をすくめる。しかし次の瞬間、それは不適な笑みに変わ り、こう言い切った。 「だが、この魔術だけは自負させてもらうぜ。俺の“糸”は、どんなことがあっても 切れやしない」 その迫力に、ティアは打ちのめされたような気分になった。 魔術師の家系に生まれ、魔術の才能に恵まれなかった者が見つけた、絶対の一つ。な にがあろうとその一点において練達を自負する、鍛え抜かれた、その自尊心。その裏 にあった日々を思いやる。その苦難は、想像に難くない。 その時、まるで不意打ちのように、前夜の言い合いが想起された。 『こっちにはこっちで事情があるんだよ!』 そう叫んだ彼の背景。その『事情』の重さ。 胸が、痛かった。 「……ごめん」 数秒の沈黙の後、知らず、そう呟いていた。 「私……」「まあ、なんだ……!」 その弱々しい言葉を、フォルスがさえぎる。びくっ、と顔をあげたティアを正面か ら見て、フォルスは言った。 「今日は話しすぎたな。このままじゃどうにも不公平だ。不公平だから、今度はお前 の番だ。まぁ、そのうち、な。今はそんなことより……」 フォルスは、ティアの腰の剣を指差して言う。 「食後の腹ごなしに一勝負、ってのはどうだ? 俺にも剣の心得はなくはない。数年 使ってないさびついた腕だが、それはお互い様だろう?」 その言葉、 その、いつもどおりの自信満々の笑みに、 何かが、 トン、と、 心を叩いたような気がした。 (あーあ、気付いちゃったか、私……) 軽く俯いて一息つく。そしてフォルスに聞こえないように小さく「えいやっ」と呟 いて、ティアは思い切りよく顔を上げた。 破顔一笑。ここ数日で最高の笑顔の自信がある。少々驚いた様子のフォルスを見 て、さらに笑みがこぼれる。 「ええ。お相手願うわ、フォルス」 ティアは思った。 今度私のことを話すとき、それこそ包み隠さず、何もかも話してやろう。 そう、 私のこの気持ちも、である。 「ところでフォルス。私、この剣使っていいの? 思いっきり振っちゃうけど」 「いや、それは勘弁してくれ……」 |