2003年度第一期リレー小説
不逞
「The Tale of the Casket」(仮:問題はこのタイトルをいかせるかだ) 第8回
その手が仮面をはずしてもなお、彼女は硬直を解くことができなかった。
仮面を取った彼の面に、思いがけない輝きを見てしまったから。彼の左眼には、青く美しい煌きが、そう青玉が嵌め込まれているのだ。それが彼女の呼び名の由来であり、彼女の運命だった。
なかば放心したまま控えの間に入ると、背後の扉は音を立てて閉じ、代わりに目の前の扉が開いて老婆が顔を出した。
部屋に戻る間、老婆は事情を知っているのか、どんな表情も浮かべず泰然としているように見えた。すべては彼女の知らない所で進行しているようだった。部屋に戻ると眠るよう促された。
「今宵はお休みなされませ、青玉の姫」
老婆の言葉に、改めて絶望がのしかかってきた。何のことは無い、元の生活と同じではないか。自分の運命を他人に決められ、所有物として扱われるだけ。何が「青玉の姫」だ……「誰それの娘」「誰それの奥方」と何も違わない。こんな所に連れ去られて、挙句は元の生活と何一つ変わらない、むしろ悪いぐらいだ。
アズレセアの心にふつふつと怒りの感情が湧いてきた。
翌朝、彼女は老婆に切り出した。
「キュリアベル様にお目にかかりたいのです」
「ご主人様でございますか……?」
老婆が少し動揺しているように見えた。
「ご主人様は明後日になるまでお戻りになりません」
「わかりました。お待ちしましょう」
明後日では仮面の男が約束した期限の当日になってしまう。だが仕方なかった。
二日後、三階の奥の書斎で、館の主人と向かい合う彼女の姿があった。
「では、あなたは檻の中に戻りたいとおっしゃるのですか」
「元の生活にです。そうして下さるとおっしゃいました」
少しうわずりながらも、彼女の声ははっきりしていた。
しかし、少女の返答は彼女の希望を打ち砕いた。
「残念ながら、それはもうできません」
青ざめる彼女に向かって、少女は言葉を続ける。
「私が手を回せたのは、あの晩、あなたが彼に呼び出されるまでの間だけ。今となっては、もうそのような事は不可能です」
アズレセアの目の前が真っ暗になった。どこかで見た光景だ、と彼女は思った。
「ですが」
少女が言葉を続けている。
「あなたが、どうしても逃げ出したい、とおっしゃるなら力をお貸ししましょう……森を突っ切ってお行きなさい。もちろん一人では抜けられませんから、従者をつけてさし上げます。その者たちを連れてお行きなさい。」
少女がつと指を伸ばし、彼女の後ろを指した。いつの間にか、そこには八人の灰色の衣に身を包んだ者達が立っている。室内だというのにフードを深くかぶっていて顔は見えず、性別もはっきりしない。だが、身長は彼女と同じくらいしかなかった。
「森であなたの助けとなるでしょう。ただし、この者たちと一緒にいる間は、決して神に祈ってはなりません」
後ろの八人は黙っていた。
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