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2003年度第一期リレー小説   烏刃霧雨

「The Tale of the Casket」第1回 



「こんなにも貴方が愛しいのに、運命というものには逆らえないのですね。」
 とある小国の王子との愛を貫きたいにも関わらず、国のため国民のために大国の王との意に反した婚儀を結ばなくてはならなくなった姫、その姫が今まで愛していた王子に対し泣く泣く別れを告げる、そのようなシーンを王立歌劇場の看板女優の1人であるマルデリア・リンデローズは見事にその役を好演しており、観客をその世界に引きずり込んでいた。一部の人間を除いて、であるが。
 王立歌劇場が一般に公開されているとはいえ、歌劇などを見に来るのはもっぱら富裕層や貴族であり、話の流れは彼らをいかに楽しませるかということを念頭に置いて作られる。しかしそんななかでも、篝火のみによって照らされる薄暗い劇場の中では睡魔に抗しきれない者も多い。そしてまた自身の身の上からストーリーに反発するという者も若干名存在した。
 彼女もまた、そんな1人。意に反した結婚の準備期間もかねて、婚約者であり未来の夫となる男とこの歌劇を見に来ていた。しかし隣でストーリーに没頭して涙を流す男の馬鹿面は彼女からどんどんその歌劇に対する興を削いでいった。
 どうせなら、仲の良い女友達か女中と見に来たかったと思う。国のため国民のために意に反した結婚をしなくてはならない姫。その悲劇を見て皆は泣く。だってそれは大逆転の結末が待っているのが解っているから、だから泣く余裕がある。いや、むしろラストの感動を自分の中でより盛り上げるために泣く。そう、ここでは彼女との別れを泣く泣く受け入れた王子は、ラストは勇敢な仲間を率い、姫をその腕の中に取り戻すのだ。
 それに比べて自分は?家のため、父の権勢のため、隣の男と結婚しなければならない。そこから自分を救い出してくれる王子は?一人の男の顔を思い浮かべる。頼りなげな、けれど太陽のようにまぶしい笑顔。愛しい顔。けれどその顔をすぐに頭の中から振り払う。彼は従士でしかない。決して王子にはなりえない。
 隣で涙を流し続けている男を見る。自分は鳥籠の中に閉じこめようとする、歌劇であれば大国の王。貴族としては決して権力とはお近づきになれそうにない小物。現在の王の16番目の王子で14番目の王位継承者。その事実が性格形成の段階で歪みをもたらせた、そのような男だった。成り上がり者の2代目の父としては、この男の中に流れる血が魅力なのだ。家に格が欲しいのだ。
 どうしようもなくて、八方塞がりな状況。もっとも打開する手段がないから、歌劇を見に来ているといったわけなのだが。けれど結局、彼女は自分の願いと現実がどのようにしても埋められないということを痛感するだけだった。
 篝火がすべて落ちた。場内が暗転した。

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